昔、粗末な衣類を着てお忍びで街に出かけた王様がいました。
王様が街を歩いていますと1人の靴直しが退屈そうに仕事をしているのが目に留まりました。
王様は靴直しのそばに行って聞きました。
「この世の中で1番楽な仕事をしているのは誰だろうか。」
靴直しが
「それは王様に決まっているよ。自分の思うように仕事ができるし、家来は何でも言うことを聞いて従うし、国民から必要なものやお金を取り立てることができるからこんな楽な仕事は他にはないと思うよ。」
王様の靴直しの言うことに適当に相槌を打ちながら持っていた酒を靴直しに勧めました。
靴直しは今まで飲んだことのないような美味い酒なので飲み過ぎて眠ってしまいました。
王様は、早速家来に命じて靴直しの粗末な服を脱がせると、立派な王様の服を着させお城に連れて行って王様の寝室に寝かせました。
そして、家来一同に数日の間知らんふりをして自分に対する応対と同じように靴直しに接するように命令しました。
翌朝、靴直しは目を覚まし立派な宮殿のベッドに寝ているのに驚きました。
そこへ侍女が現れていいました。
「王様、お目覚めですか。すぐに朝のお支度をお済ませください。朝食の後は政務がたくさん溜まっておりますし、家来へのご命令や国民からの陳情をお受けにならなければなりません。午後からは他国からのお客様がお見えになります。夕方はお客様との晩餐会が催されます。」
王様になった靴直しは何が何だかわからないまま、すっかり王様になった気分で言われるがまま行動しましたが、初めての事ばかりで1日中休む間もなく動き回ったので心の身体もクタクタに疲れ果ててしまいました。
知心寺住職 眞田正適
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